【新着】思春期の睡眠分野で世界をリードするAmy先生を日本にお招きし、東京で講演会を実施することが決定しました!
「Start School Later(始業時刻適正化)プロジェクト」
私たちは学術的な知見に基づき、中高生の睡眠環境を改善させたいと考えています。
始業時刻適正化プロジェクトは、単なる個人的な経験から始まったわけではなく、科学的なエビデンス(事実)に基づき活動しています。深刻な睡眠不足にあえぐ日本の中高生の心身の健康を守るために、学校の始業時刻を適切に遅らせることは、現在世界各地で研究が進んでいるのです。
睡眠時間が短いことによる生徒の心身への悪影響は深刻です
皆さんの中高時代を思い出してください。授業中に集中力を欠いている友達であったり、あるいは心身に問題を抱えている同級生はいませんでしたか?もしかしたらそれは、睡眠に関わる問題に原因があるのかもしれません。これを裏付けるように、例えばある調査では高校生の約10人に9人が授業中に居眠りをしているとの報告がなされています[1]。
この原因としてあげられるのが深刻な睡眠不足の問題です。思春期の生徒は最低でも8時間の睡眠をとる必要がある一方で[2]、片岡らの調査では、日本の高校生の約9割がこの水準を満たさず、特に男子生徒の約半分は6時間未満の睡眠(6時間睡眠を10日続けると、認知機能が徹夜明けと同等にまで低下する[3])しかとることが出来ていません[4]。
では8時間未満の睡眠は、心身にどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。上で述べた認知機能の低下だけでなく、長期的には、自殺企図のリスクが2.9倍になるほか[5]、学業成績の低下[6]や問題行動の増加[7]が見られ、また運動中の怪我のリスクも40%程上昇する[8]ことが知られています。
思春期の睡眠不足に対して有効な解決策は、「早寝早起き」ではなく『遅起き』
以上のような睡眠不足に対し、これまで日本では「早寝早起き」による生徒指導を試みてきました。しかしそのような生徒指導が存在する一方で、「思春期の早起きが、生徒の心身に悪影響を及ぼす」ということが近年睡眠学分野で明らかにされています。これは「思春期の生徒は自然と夜型の生活リズムになるため、生活習慣に関係なく、早起きは自然と困難になるものである」ためであり、この知見を踏まえたアメリカ小児科学会の声明(2014年)には、「中高の始業を8:30以降にすること」が盛り込まれました[9][10]。
また実際にカリフォルニア州議会で始業遅延法案の審議が進んでいるほか[11]、アメリカ・イギリス・香港・韓国をはじめとした先進諸国では始業遅延の実験、あるいは始業遅延の実際の導入が進められてきました[12][13][14]。
※2018年8月までに、カリフォルニア州議会で、午前8時半より早く始業時刻を設定することを禁止する法案が上下院を通過しています[15]。
このように、現在世界的に「適正な始業時刻への移行」「思春期に過度な早起きを強制しない」という取り組みが進んできています。そして始業を遅らせることによって、次に述べるような生徒の心身状態の大幅な改善に成功しています。
始業時刻を適切に遅らせることで、生徒の心身の健康に繋がります
始業時刻の適正化がもたらすメリットについては多岐にわたって報告されています。ここではレビュー論文を参考にしながら、幾つかの研究をご紹介致します[16]。
例えば睡眠時間が長くなることは、日中の眠気が減ったり、抑うつ状態が改善したりすることに繋がります。2015年のバージニア州の研究では、50分の始業遅延によって平均睡眠時間が30分伸びたと共に、日中の眠気が5%程改善し、昼寝も約9%減少しました[17]。
このような結果は、最も遅延の幅が小さい研究、具体的には15分の始業遅延によってもたらされています。例えば香港の研究では15分の始業遅延の結果、睡眠に満足する生徒が8%増加し(29.3%から37.3%)、授業中の寝落ちも6.4%から3.5%にほぼ半減しています[18]。
他にも病欠の半減[19]や交通事故の減少[20]といった多数の実証例があります。
これらの学術的知見に基づき、中高生の睡眠環境を改善させるべく、私たちは中高の始業時間を遅らせるべきだと主張しています。
なお、この「Start School Laterプロジェクト」は、東京医科大学で睡眠健康研究ユニットリーダーを務めておられる志村哲祥先生の全面的な御協力に加え、日本における児童思春期の睡眠研究の権威である駒田陽子先生、またオックスフォード大学Nuffield臨床神経科学科で研究をされたPaul Kelley先生などの御助言を頂きながら、進めております。
出典
[1] 松本,松嶋(2008)高校生の生活習慣に関する調査研究-授業中に見る居眠りについて-.大阪教育大学紀要. 第57巻. 第1号. p.55-70[2] Shalini et al (2016) Recommended Amount of Sleep for Pediatric Populations: A Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine, Journal of Clinical Sleep medicine
[3] Van Dongen et al (2003) The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation, Sleep Research Society, Volume 26, Issue 2, p.117-126
[4] 片岡千恵ら(2014)我が国の高校生における危険行動と睡眠時間との関連,日本公衛誌,第61巻第9号
[5] Liu (2004) Sleep and adolescent suicidal behavior, Sleep New York Then Westchester
[6] Wolfson and Carskadon (1998) Sleep schedules and daytime functioning in adolescents, Child Development, Volume 69, Number 4, Pages 875-887
[7] Anne G. Wheaton, Daniel P. Chapman, Janet B. Croft (2016) School Start Times, Sleep, Behavioral, Health, and Academic Outcomes: A Review of the Literature, Journal of School Health
[8] Milewski(2014) Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes, Journal of Pediatric Orthopedics, Volume 34, Issue 2 p.p. 129-133
[9] Dorothee Fischer (2017) Chronotypes in the US- influence of age and sex, PLOS ONE
[10] Let Them Sleep: AAP Recommends Delaying Start Times of Middle and High Schools to Combat Teen Sleep Deprivation, American Academy of pediatrics, 8/25/2014
[11] School Start Time RESEARCH & INFORMATION, COMPLIMENTS OF Anthony J. Portantino, State Senator
[12] The Children’s National Medical Center’s Blueprint for Change Team (2014) School Start Time Change: An In-Depth Examination of School Districts in the United States
[13] Seattle Public Schools (2015) School Board Briefing/Proposed Action Report
[14]登校時間が9時に 韓国自治体で初の試み=生徒らの提案が実現, 聯合ニュース,2014/08/25
[15]”Middle, high schools can’t start earlier than 8:30 a.m. under newly approved California legislation”, San Francisco Chronicle
2018/08/31 https://www.sfchronicle.com/politics/article/Middle-high-schools-can-t-start-earlier-than-13198460.php
[16] Anne G. Wheaton, Daniel P. Chapman, Janet B. Croft (2016) School Start Times, Sleep, Behavioral, Health, and Academic Outcomes: A Review of the Literature, Journal of School Health
[17] Judith A. Owens et al (2017) A quasi-experimental study of the impact of school start time changes on adolescent sleep, SLEEP HEALTH
[18]N Chan et al (2015) The effect of a modest delay in school start time on Hong Kong adolescent sleep and daytime functioning, Sleep Medicine 16
[19] Paul Kelley et al (2017) Is 8:30 a.m. Still Too Early to Start School? A 10:00 a.m. School Start Time Improves Health and Performance of Students Aged 13-16, Frontiers in Human Neuroscience
[20] Fred Danner, Barbara Phillips (2008) Adolescent Sleep, School Start Times, and Teen Motor Vehicle Crashes, Journal of Clinical Sleep Medicine